Omnis No.44

＜はじめに＞

甲南大学・植物生理学研究室のご厚意により、同研究室で作成された簡易プロトプラスト迅速単離キットを配布していただいた。

今回はその試用の結果をご報告する。

＜準備＞

　甲南大学・植物生理学研究室製プロトプラスト迅速単離キット（ｆｉｇ．１）、野菜・果実各種（ｆｉｇ．２）

ｆｉｇ．１　甲南大学プロトプラスト・キット内容
（左から）調整済酵素液入りマイクロチューブ（５０本）、ゴム栓（ガラス管２本、スクリューコック付）、吸引瓶、チューブ・フロート（５枚）
以上が写真奥のケースに入っている。

酵素液は表１に示すように、初めから全ての酵素が調整済みなので、使用に当たっては、試料を加えて脱気・湯煎するだけで反応が進むように配慮されている。また、酵素液はあらかじめ冷凍されており、発泡スチロール製の容器ごと冷凍庫に保管しておき、必要に応じて解凍して使えるようになっているので大変便利である。

ｆｉｇ．２　パプリカ（黄、赤、橙）、ピーマン、ホウレンソウ、紫キャベツ、キュウリ、にんじん、ミカン、バナナ、トマト
なんだかお料理番組状態です(^^;)

＜方法＞

マイクロチューブを手で温め、酵素液を解凍する。
野菜を３～４mm角程度にみじん切りにし、１チューブにつき１０片程度を入れる(ｆｉｇ．３)。
ｆｉｇ．３
フタを開けたまま、吸引瓶の中の粘土にチューブを立てる(ｆｉｇ．４)。
ｆｉｇ．４　
コックを閉めた吸引瓶をアスピレーターにつなぎ、減圧する(ｆｉｇ．５～６)
減圧するのは、酵素液が試料に浸透する時間を短縮するため。減圧に要する時間は２～３分。
ｆｉｇ．５　ｆｉｇ．６　
突沸しそうになったらすかさずコックをゆるめ、減圧スピードを調節する。
突沸すると、試料が飛び散って悲惨なことになる。←実は一度やってしまいました(ｆｉｇ．７)。
ｆｉｇ．７
気泡が出なくなったらアスピレーターを止め、チューブのフタを閉めてチューブフロートにセットする(ｆｉｇ．８)
ｆｉｇ．８
チューブフロートごと３０℃前後の湯に浮かべ、約５分ごとにチューブフロートごと振って攪拌しながらて３０分間湯煎する(ｆｉｇ．９)。
ｆｉｇ．９　
反応が終わるまでしばし歓談
反応後、最後にチューブを一本ずつよく振り、試料をピンセットで取り除いてから５分間静置し、プロトプラストが沈殿するのを待つ。
チューブの底の方からマイクロ・ピペットで少量吸い取り、ホールスライドグラスで検鏡する。

＜結果＞

採取したプロトプラストの様子
ｆｉｇ．１０　ｆｉｇ．１１
ｆｉｇ．１２　ｆｉｇ．１３
ｆｉｇ．１４　　
ｆｉｇ．１０……ニンジン(カロチンを含んだオレンジ色の有色体がはっきり見える)
ｆｉｇ．１１……ミカン(一番収量が多かった)
ｆｉｇ．１２……パプリカ(赤)(有色体と若干の小さい顆粒が観察された。デンプン粒？)
ｆｉｇ．１３……ホウレンソウ(葉緑体が膜の裏側に張り付いている様子がよくわかる)
ｆｉｇ．１４……紫キャベツ(表皮細胞なので体積が小さいため、プロトプラストのサイズが一番小さかった。葉肉細胞は壊れてしまったのか、見えなかった)

プロトプラストの融合

＜方法＞

２種類のプロトプラストをスライドグラス上に１滴ずつ取り(ｆｉｇ．１５)、爪楊枝でよく混合する。
ｆｉｇ．１５
混合した液の周りにＰＥＧ(ポリエチレングリコール)を４滴置き、爪楊枝で糸を引くように静かに混合する(ｆｉｇ．１６～１７)。
ｆｉｇ．１６　ｆｉｇ．１７
そのままカバーガラスをかけないで検鏡する。

＜結果＞

融合しようとしているプロトプラストの様子
（ミカンの収量が一番多かったので、片方はミカン細胞で統一した）
ｆｉｇ．１８　ｆｉｇ．１９
ｆｉｇ．２０　ｆｉｇ．２１
ｆｉｇ．２２　ｆｉｇ．２３
ｆｉｇ．１８～１９……ミカン同士
ｆｉｇ．２０～２１……ミカンとニンジン
ｆｉｇ．２２～２３……ミカンと紫キャベツ
プロトプラスト同士が接着し合うまでは見られるが、その後なかなか融合しない。ＰＥＧが足りないせいかと、二度三度と追加してみたが、やはり融合はしなかった。何かコツがあるのかも？

＜本キットについて＆謝辞＞

今回使用したキットは、甲南大学・植物生理学研究室の作成されたものである。実践教育メーリングリストでその存在を知り、申し込んだところ、快く配布していただいた。
通常、プロトプラストの調整は培養を目的として行うため、無菌操作が欠かせないものである。しかし本キットは、培養でなく単離・観察を目的として設計されている。全ての操作も学生実習の１～２時間で終えられ、指導する教員の負担もなるべく軽くすむように配慮されている。従って、単離したプロトプラストの分裂能力や培養までは考慮せず、無菌操作も当然行わない

酵素液の組成は以下の通りである。多くの植物に適用でき、、濃度、浸透圧、pH、Ｃａ++ やＫ+ の濃度も考慮されている。この中に材料を入れ、脱気・湯煎すれば、簡単にプロトプラストを得ることができる。

酵素液の組成 (100ml : pH5.8)
マンニトール (0.5 M )	9.1g
セルラーゼ・オノヅカ R-10	1.0g
マセロザイム R-10	0.2g
ペクトリアーゼ Y-23	10mg
KCl (3.5%)	3.5g
CaCl2 (0.5%)	0.5g

プロトプラストの細胞融合は今回観察できなかったのが残念であった。しかし、生徒に見せる場合は、プロトプラスト同士の接着だけでも十分に効果があるだろう。なんと言っても、特別な設備も必要とせず普段の教室でバイオテクノロジーを体験できてしまうのが大きい。
使用した感じは大変使い勝手がよい。「こんなに簡単にできちゃっていいの？」という感じ。
実用的で完成度の高い、優れたキットである。是非多くの方に使っていただきたい。
お問い合わせは甲南大学・植物生理学研究室まで

テーマ：プロトプラストの細胞融合

内容：キットを利用してプロトプラストを作り、細胞融合をさせてみる

＜はじめに＞

＜準備＞

＜方法＞

＜結果＞

プロトプラストの融合

＜方法＞

＜結果＞

＜本キットについて＆謝辞＞